家族のそばで人生を全うしたい

A家族のそばで人生を全うしたい

 農村の古きよき伝統と文化が生き続け、細やかな人情が残る上秋津。しかし、高齢者の間には、地域活動への参加をためらい、健康や将来に不安を抱くひとは多い。
 ここに、二つのデータがある。ひとつは七〇歳以上の高齢者461人全員を対象にしたものであり、もうひとつは小中学生アンケート調査報告である。2つのデータを重ね合わせることで見えてくる、上秋津の風景がある。
高齢者の家族構成 家族の人数


 高齢者の家族構成は、三世代同居が51一%と半数を占めている。家族の人数は中学生の家族でみると、5人家族が30.9%で一番多く、4人家族の30.1%と肩を並べている。とくに目を引くのが、6人以上の家族の割合である。調査時点では中学生で27.6%あり、小学生では32.6%だった。少子高齢化、核家
族化は現代日本の深刻な問題となっており、当然かつてのように三世代同居や、ひとつ屋根の下に7、8人が暮らす大家族の家は少なくなりつつある。

 そうしたなかにあって、この地域では、こどもが親、そして祖父母と暮らす家族の風景を、まだ、多くみることができる。
 しかしながら、その上秋津でも、核家族化、家族の少人数化の傾向は、はっきりあらわれている。同じ調査で、高齢者だけの家は「自分1人だけ」(9%)と「夫婦二人暮らし」(18%)をあわせて27%ある。つまり、10軒に約3軒は高齢者家庭ということになる。

 日本の高齢化社会は今後さらに進み続ける、そして「人生80年時代」といわれる世界有数の長寿国は、高齢者介護、年金の支給時期や支給額、負担率など多くの課題を突きつけられている。介護保険制度は老後の安心と密接に関わる問題だが、これについて知っていると答えた高齢者は2割にとどまり、15人に1人しか利用されていないという結果になっている。原因のひとつを家族で支え合う伝統が強く残っていることに求められる。事実7割近い高齢者は、「老後の世話は基本的に家族」で、と考えているのである。家族のそばで人生を全うしたいという思いは、多くのひとが抱く思いに違いない。同時に、高齢化社会のなかで「安心して老いるシステム」が、不十分であることも示している。


高齢者介護の家庭内分担 高齢者介護への社会支援について

 高齢者に、こどもの居住先をたずねた質問がある。こどもの約4割は県外に住む。2割が和歌山県内である。田辺市内に住むこどもは、約4割で半分以下になっている。「4割」という数字は多いのか少ないのか、
見方はあるに違いない。いずれにしろ約6割は進学や就職を機に市外に暮らす。家族に見守られて死を迎えたい、そうした願いがこの地域でも、すこしずつ困難な時代になりつつある。