秋津野未来への挑戦−集落の暮らし風景を未来へ

●集落の暮らし風景を未来へ
〜F r o m M O N O L O G U E T o C O M M O N〜

 W I S D O M 集落生活「もの語り」ミュージアムへ〜。『上秋津マスタープラン21 』第二部「秋津野の暮らしと風景を未来へ(景観編)」の、地域づくりへの提言である。その「語り」を、紹介する。

 図は、この提案をまとめた和歌山大学システム工学部環境システム学科神吉研究室によるものである。上秋津地域の景観と、その景観にまつわる伝承にもとづき、六つのエリアとそれらをめぐるミュージアムトレイルが示されている。
 ミュージアムは、集落のこれまでの生活史を知ることができる、上秋津田園トレイルを旧道(かつて岩内街道、秋津街道、龍神街道と呼ばれた道)を中心に想定し、様々な旧道のネットワークの中から、語りのテーマとそれに相応しいトレイルルートを開発する。トレイルに沿って、集落の家並み、寺社、祠、河川などが展開し、高尾山、柑橘畑、平野部の農地の眺めのなかを抜けていく道である。

 ミュージアムは、水田や雑木山あるいは水車やまちなみなど、再生・保全すべき環境を活用する。
 また、モノは再生するだけでなく、使い方を再生・継承し、川遊びや里山の自然学習など学び、体験するのだ。
 だれもが語ることができる、だれもが語りだしたくなる地域でありたい。「ミュージアム」構想の大きな目的は、そこにある。景観の構造と構成要素、農という営みのなかで作ってきた地域の知恵、文化、魅力や、そのことにどのような意味があるのかを、若い世代もあたらしく移り住んだひとも、知っていることは大事ではないか、という問いかけから出発している。一人のひと、特定の人のなかにしまいこんでおくのではなく、そのひとの話、「語り」を聞き、「共有の知恵」にしよう、というのである。たとえば、「標高およそ三〇〇m 付近で、果樹園と山林の境界があるが、なぜ300m なのか」。果樹園と山林の棲み分けと意味を知ることは、景観の維持につながっていく。

 むらづくりは、できるだけさまざまな住民層とともに、そうしたトレイルルートを歩きながら、語りを聴き、知恵を聴く活動をおこなって、より具体的に地点、土地に関わる、景観の保全・再生・創造に関わる作業を行っていくのがいいのではないか。たとえば、休耕していた田をもう一度起こすのは、大変な作業になる。その最初の時点から、関心を持つひとには、立ち会い、参画してもらう。空き家になっていた建物を活用するのであれば、改装の設計段階に立ち会い、参画してもらう、という工夫である。

 「美しく景観、よそおいをして客人を迎えるのではなく、工夫を重ねる保全のプロセスそのものを見知ってもらい、応援・参画してもらう方向で、ひとびとを巻き込んでいくことである」、報告書は、このように提案している。