秋津野未来への挑戦−食から始める地域づくり

A食から始める地域づくり

 三宝柑シャーベット、三宝柑アイスクリーム、それに三宝柑ゼリー。秋津野直売所きてらで販売する人気商品が、三宝柑を使った冷菓である。生産者はいきしな工房(代表森山由美子さん会員4人)、2003年4月、地元に住む農家の主婦やサラリーマン家庭の女性でつくられた。いずれも40代前半の女性たちである。

 会員のひとり、愛須幸子さん(1958年生)は、「上秋津では、秋津野塾を中心にまちづくりに、住民みんなが努力している。勉強会に出席して話を聞きながら、わたしたちも地域の活性化のために協力したい、農産物を使ってできることがあると考えたのです」、といきしな工房が結成されたいきさつを説明する。

 三宝柑は、「徳川時代の初めに、紀州藩士が藩主に実を三方に乗せて献上したとき、仏教の宝珠にかたちが似ていたために命名された」、と伝えられる和歌山生まれの柑橘である。全国の生産量の約九〇%は和歌山県でつくられ、上秋津でも栽培している農家が少なくない。
 三宝柑の収穫時期は、三月から四月である。だが、森山さんや愛須さんたちは、まだ実が青い一二月から二月頃に収穫し、なかの実をくり抜いて「器」(皮)にするために、J A を通じて出荷する。三宝柑の皮は香りがよく、シャーベットの器に適していることから、季節のデザートを提供する料亭などから需要がある。そして、年が明けるとジャム、夏はシャーベットやアイスクリーム作りに追われることになる。

 防腐剤などの添加物はいっさい使わない、三宝柑特有の香りとほのかな甘さは「味が違う」と消費者に好評だ。地元の産物にこだわり、これまでに三宝柑の皮と果汁を使ったシャーベット、アイスクリーム、ゼリー、それに清見オレンジのゼリーなどを製品化した。加工場は森山さん宅で、昼の仕事を終えた夜がほとんどだ。「加工品作りと、家の仕事とは別」、子育て世代のお母さんたちは話がはずみ、しばしば夜の勤務時間を越えることになる。

 「自分たちが作ったものが売れれば、確かにうれしい。しかし、儲けるだけではなく、少しでも多くのひとに買って食べていただき、果物が生まれる上秋津のことを知ってもらいたいと思います」、愛須さんたちはそう願っている。地産地消の地域づくり、加工品販売で得た収入は、「地産地消で成功している地域の視察費用にあてる」。直売所の棚に並ぶ、女性たちの手づくりによるあたらしい特産品。食から始まる地域づくりである。