いつまで続く人口バブル

● いつまで続く人口バブル

10年あまりで人口は20%も増えた。
 政治・経済・文化などのあらゆる面で、紀南地方における中核的な役割を担ってきた田辺市。しかし、長くひとびとの暮らしを支えてきた農林水産業の低迷・不振は、地域経済を直撃し、1980年代半ば以降人口は微増減を繰り返している。  市全体のそうした人口動態とは逆に、人口増が続くのが上秋津である。この地域は1990年代から人口の転入が増えはじめる。中心部に住む人たちが、比較的宅地を入手しやすい郊外
へと移動するようになったためである。移動を開始した住民の多くは、25歳から40歳の、小中学生のこどもをもつ若い世代である。
 田辺市でも、核家族化が急速に進んでいる。 1990年(平成2年)に700世帯2762人だった上秋津の人口は、2002年(平成14年)に世帯数が975戸と1000世帯ちかくに達した。人口は3265人、20%以上も増えた計算になる。この10年あまりの間に、田辺市全体では人口が200人ほどしか増えていないことを考えると、「20% 以上」(539人)という数字の大きさがわかる。 

 人が増えることは、多くの人が動き、あたらしい風を吹き込む。アンケートでも、「活力が出てくる」と、肯定的な受け止め方が目立つ。さまざまな職業、考え方のひとたちが集まるところは、発想や構想の源となり、そのこと自体はメリットがある。
 新しく移り住んできた住民のほとんどは、非農家、勤労者だ。だが、急激な人口増は、他方で住民同士の意思の疎通を欠いたり、不信感や軋轢(あつれき)を生じさせることにつながる可能性もある。 たとえば、農
業に従事する若い世代の間には、新しい住民は「最初はつき合いにくいが、よく話し合うとそれほどでもない」「まったく違和感がない」「違った価値観や生活様式を持ち込んでくるのでむしろ歓迎」という声が多い。
 女性も、同じような声が多数派になっている。
 しかし、非農家・新住民から寄せられる農家に向けられた苦情が、農家をとまどわせ、反発につながるケースもある。「農村のルールを無視しないで」「農業の役割や機能、きびしい実態を理解してほしい」「農家とのコミュニティも大切にしてほしい」という声は、農家の気持ちを如実に伝えている。


田辺市全体と上秋津地区の人口・世帯数の推移

人口





世帯数